[キング]・・・王
(英:King)(独:Konig)(仏:Roy又はRoi)(伊:Re)(スペイン:Rey)(ポルトガル:Rey)

*スペードのキング  「ダビデ王」(?~970BC)
旧約聖書「サムエル記」に登場する古代イスラエルの王「ダビデ王」です。このダビデと妻「バテシバ」の間に生まれたのが伝説の王「ソロモン王」です。ダビデ王はハーブ(竪琴)を奏で、幼少のころサウル王を慰めたと言われています。讃美歌も書いた人物と言われ、古いカードにはハーブが描かれていることがあります。また、投石器を使いペリシテの巨人ゴリアテをたおしたと言われゴリアテの剣を常に持っています。

*ハートのキング   「シャルルマーニュ」(742年~814年)
(「チャールズ大帝[1世]」「カール大帝」とも言います。)
8世紀末~9世紀、中世のヨーロッパの英雄でカロリング朝フランク王国のシャルルマーニュです。(なおシャルルマーニュはフランス語圏、チャールズ大帝{1世}は英語圏、カール大帝はドイツ語圏での呼び名です。また、ラテン語ではカルロス大帝です。)
「ヨーロッパの父」と呼ばれたシャルルマーニュは西暦800年12月25日にローマ法王、教皇レオ3世により皇帝の載冠をうけ、この時を西ローマ帝国の復活と見て西ローマ帝国皇帝となったと考えられています。
なお、口ひげをたくわえていないキングは、ハートのキングだけです。これは最初に作られた木版の一つに、これを彫った職人がノミを滑らせてしまい、誤ってひげをそり落としてしまったため、それ以来、口ひげがない?のだそうです。元々中世期の武器"戦斧"を振り回している姿だったそうですが、何年かたつうちに"戦斧"の頭が落ちて、その柄が剣の柄に変えられた?そうです。英国では18世紀後半、このカードには「キューピットの矢、無用」の仇名があり、トランプの中では一番強い札とされていました。

*クラブのキング   「アレキサンダー大王」(356BC~323BC)
マケドニア・ギリシャ連合軍を率いて、一大帝国を築き世界を征服した最初の王。衣服のどこかに十字架つきの宝珠を飾っているものもあります。一時はアーサー王やカルタゴのハンニバルが描かれたこともあるようです。なお、アレキサンダーが統治した土地をアレキサンドリアと呼び、これは複数あったようですが、一般的にアレキサンドリアといえばエジプトに作られた都市を指します。

*ダイヤのキング   「ジュリアス・シーザー」(100BC~44BC)
古代ローマ帝国皇帝ジュリアス・シーザー(英語読みでユリウス・カエサル)です。キングの中で唯一この王がダイヤを見るように横向きなのは、
1. ローマ帝国のコインに表された唯一の肖像が横向きであったため。
2. 金に執着心が強かったため。
3. 横にいるクレオパトラを見つめていたため。
など諸説あります。ただ、古いダイヤのキングは反対の方向に向いているものもあるのですが…。
一説によれば、古いルーアンの札は左向き。右向きの札は、17世紀のパリで始まったそうです。また、1490年頃のカードには、ローマの元老院に報告した、「我来れり、見たり、勝てり」の有名な言葉も記されているそうです。

以上、これら4人のキングは、西欧文化の基礎となった4つの文明「ヘブライ(イスラエル・ユダヤの別称)」「神聖ローマ帝国」「ギリシャ」「古代ローマ帝国」を表しているそうです。

 

 

クイーン
[クイーン]・・・女王
(英:Queen)(独:Dame {Ober:〈上官〉が使われる時もあり})(仏:Dame又はReine)

*スペードのクイーン  「パラス・アテナ」(Pallas Athena)
ギリシャ神話の知恵と学問の神であると同時に戦いの神である「アテナ」(ローマ神話ではミネルヴァ[Minerva])です。このクイーンだけが唯一武器を手にしています。ダビデと同じ剣からの連想で、この札の女王となったと言われています。一時は「ジャンヌ・ダルク」といわれたこともあり、英国では「悲嘆」の名がついているそうです。

*ハートのクイーン   「ジュディス」(Judith)
ジュディスに関しては三つの説があります。
1. 旧約聖書外典の1つである「ユディト記」に登場するユダヤの女傑ユディト(仏語読み、英語ではジュディス)。
2. シャルルマーニュ(カール大帝)の王子ルイ1世〈ルードヴィヒ〉の妻、ババリア(バイエルン)のジュディス。ブロードウェイの芝居「ピピン」に紹介された?
(上記、1.と2.の説について旧共立女子大学教授の吉田正俊氏は、昭和47年の「英語研究」の中で、「ハートのクイーンは2.のシャルル大帝の養女ジュディスであるが、彼女は淫蕩の傾向があって、フランス人は好まず1.の女傑ジュディスということになっている。彼女はアッシリアの猛将の首をとって民を救ったので、その勇気をハートで象徴した」と述べています。)
3. シャルル6世の妻、バイエルン(ババリア)公女「イザボー・ド・バビエール、1371~1435年」(これもババリアのジュディス?彼女も悪女説あり)
など、諸説あります。英国での仇名は「美しき盗賊」だそうです。

*クラブのクイーン   「アージン」(Argine、アルジーヌ)
ラテン語の女王(クイーン)の意味を持つレジーナ(Regina)のアナグラムを用いて表したアージン(Argine)と言われています。初期には「素敵なルクリース」、「フローリプ」と呼ばれたこともあるそうです。
フランスの大貴族アンジュー公ルイ2世とアラゴンの美しい王女ヨランド・ダラゴンの間に生まれたアンジュー公女マリー(マリーダンジューまたはアラゴンのマリー?)を指すと考えられています。
マリーはジャンヌ・ダルクの活躍により国王になったシャルル7世(イザボー・ド・バビエールの息子、1403~1461年)の妻となるのですが、シャルル7世には他にアニエス・ソレルという公式な妾がおり宮廷で強い影響力を持っていました(ソレルはダイヤモンドを身につけた初めての女性で、後に水銀により毒殺されたとか・・・)。また、シャルル7世の母でハートのクイーン説のあるイザボーや11歳以後のシャルル7世を実質的に育て、強い影響を与えたマリーの母ヨランドなど影の実力者に囲まれて、マリー自身は非常に影の薄い存在でありました。そのため、このような字謎が使われたのかもしれません。
また、フランスの伝説の美女アルギヌ(アージン?)と言う解説もインターネットに出ています。

*ダイヤのクイーン   「ラケル」(Rachel、英語読みレイチェル)
旧約聖書の創世記に登場する、「ヤコブ」の妻のひとり「ラケル」です。ラケルは「ラバン」の美しい娘で、姉の「レア」とヤコブを取り合います。ラケルとヤコブとの間に生まれたのが「ヨセフ」です。
他の説に、シャルル7世の妾でクラブのクイーンの所で触れたアニエス・ソレルと言う説もあるそうです。
英国での仇名は「恋人の宝」だそうです。

ところで、四人のクイーンは、一人一人がそれぞれ薔薇の花を手にしているそうで、この薔薇は、イギリスのバラ戦争で互いに戦った、赤薔薇が象徴するランカスター王家と、白薔薇が象徴するヨーク王家との縁結びという説もあります。(黄色い花を持っている場合もあるのですが…)

 

ジャック
[ジャック]・・・従者
(英:Jack又はKnave)(独:Bube又はUntermann)(仏:Valet)(伊:Fante)(スペイン:Sota)(ポルトガル:Soto)

*スペードのジャック   「オジェ・ル・ダノワ」(Ogier le danois)
シャルルマーニュ(カール大帝)の12人の勇士(バラディン、聖堂騎士)の一人、デンマーク人のオジェです。オジェはデンマークでは伝説の英雄ホルガー・ダンクス(Holger danske)として親しまれています。2本の剣が特徴だそうです。18世紀の中頃、リヨンのカード製造者がPique(槍)とPipeを間違えて彼にパイプをくわえさせたことがあったそうです。

*ハートのジャック    「ラハイヤ」(La Hire)
シャルル7世の宮廷の従者で傭兵隊長のラハイヤ(ライール)です。実在の人物(1387~1442年)で、「孔雀とぶどう」の立派な家紋も墓とともに残っています。本名はエティエンヌ・ステファン・ド・ヴィニョールで、ジャンヌ・ダルクの戦友で信奉者でありました。

*クラブのジャック    「ランスロット」(Lancelot)
アーサー王伝説の12人の円卓の騎士の騎士長、ランスロットです。アーサー王の妃ギニヴィアと浮き名を流したアーチェリーの守護聖人で、「湖の騎士」とも呼ばれており、フランスでは非常に人気がありました。このカードには製造者名を記すことが多かったため、彼の名前は長いこと省かれていたそうです。
また、他の説にユダヤの英雄ユダ・マカベアという説もあります。

*ダイヤのジャック    「ローラン」又は「ヘクトール」
これも2つ説があり、
1. シャルルマーニュ(カール大帝)の12人の勇士のひとり、名剣デュランダルを持つ騎士ローラン
2. ギリシャ神話の戦士、トロイヤ(トロイ)王国の第一王子、勇者ヘクトール(ヘクトル、英語でヘクター、彼は後にアキレスに倒されます。)
初期のカードはローラン、後のカードではヘクトールとなっているそうです。
また、ダイヤのジャックは18世紀以後のイギリス、フランスでは「無価値な男」の代名詞に使われたそうです。

ちなみに、ハートとスペードのジャックは「片目のジャック」(横を向いて片目しか見えない)となっており、ハートのジャックはマークを見つめ、スペードのジャックは反対を見つめていることから、「若者は死に無頓着だが、愛に執着する。」と、たとえられるそうです。また「トランプ」(保育社)の著者、佐藤重和氏は、キングやジャックに片目のカードがあるのに、クイーンには一枚もないのは、女性たちは男性と違って、愛にもお金にもそして死に対しても、それほど興味を惹かれないのかも・・・とも述べています。

 


ところで、上記の人物とスートの対応は、古くからカード作りが盛んだったフランスのルーアンで作られたものと、17世紀~18世紀頃パリ近郊を中心にヨーロッパで広まり主流となったもの(パリパターン)では、若干の違いがあるそうです。

ルーアン版                パリ版
キング                   キング
  スペード:ダビデ王             スペード:ダビデ王
  ハート :アレキサンダー大王       ハート :シャルルマーニュ
  クラブ :シャルルマーニュ         クラブ :アレキサンダー大王
  ダイヤ :ジュリアス・シーザ        ダイヤ :ジュリアス・シーザ
クイーン                  クイーン
  スペード:アテナ              スペード:アテナ
  ハート :ラケル              ハート :ジュディス
  クラブ :ジュディス            クラブ :アージン
  ダイヤ :アージン             ダイヤ :ラケル
ジャック                  ジャック
  スペード:ヘクトール            スペード:オジェ
  ハート :ラハイヤ             ハート :ラハイヤ
  クラブ :ランスロット           クラブ :ランスロット
  ダイヤ :オジェ              ダイヤ :ヘクトール


ただし、人物とスートの対応は製造会社や時代によっても多少違っているので、これが正しいというのは、はっきりしていません。

なお現在、英国経由でアメリカや日本で広まっているデザインには、特定のモデルはないとも言われていますが、その衣装については、元滴翠美術館長、山口格太郎氏の考察によると、「現在、われわれがお馴染みのトランプの王様、王妃の服装はイギリスのチュードル(テューダー)王朝(1485年~1603年)のそれを踏襲している」と述べています。

ところで、現在の様に上下2つの顔のある両頭カードの最古のものと考えられているカードは1602年に作られたもので、ブリュッセルのハル美術館に保存されています。ただ、この様な両頭カードは19世紀の終わりまであまり普及しませんでした。
日本においては、江戸時代の洋学者、宇田川よう庵の遺品の中に本人手書きの「おらんだかるた」があり、箱の表には「一具五十二葉、文化四年(1807年)四月十日芳樹庵」と書かれています。このカードはすでに両頭となっており、クラブのキングはアレキサンダー、スペードのキングはダビデとなっています。

また、この他インターネット上には次の様な情報があります。
*カードを赤と黒に色分けしたのは、フランスが始めた。
*カードの裏面は1850年に初めて模様が付けられた。
*イギリスのぺリラ社が1862年に初めてカードの隅にインデックスをつけ、カードの4隅を丸くした。(堤芳郎著「トランプ手品百科」)
*フランスのドラルー社が初めてカードの4隅を丸くした。(桐山雅光著「トランプの遊び方」)
*カードの角が丸くなり、隅に表示(インデックス)が付けられるようになったのは1870年代。(U.S.プレイングカード社「The Playing Card People」)

このようなことを知って、カードの絵柄を眺めていると、また新しい発見があるかもしれません。